[秘湯に潜む先人の知恵]2020/1/15

那須は那須連峰を望みゴヨウツツジと紅葉が見事で御用邸もあり、牧場や豊富な温泉があって四季折々楽しめる国内有数のリゾート地です。そのなかで那須温泉神社の近くに1300年続く鄙びた木造の「鹿の湯」があり、那須にくれば必ず寄る定番の温泉になっています。鹿の湯には6つの小さな浴槽が升目に並んでいて、それぞれが41℃、42℃、43℃、44℃、46℃、48℃の温度に分かれています。温湯が好きな人でも経験のない48℃の温度掲示板を見て、恐るおそる42℃あたりの浴槽から入ってみて、44℃で無理だと飛び出る人が多数です。したがって奥隅にある48℃の浴槽に悠然と浸れる人は多数の入浴者から羨望のまなざしを受けて、この裸空間のヒーロー的存在になります。48℃ヒーローには地元の艶の良い老人達が多く、新参者の挑戦者が湯船に粗らしく入ろうものなら、「波を立てるな!」と一喝されます。48℃の高温湯では、体の周りにできる保護層を乱してはやけどする危険が有ることを諭すためです。

そのような入浴模様を眺めていると番頭さんが時々各浴槽の温度を熱電対で測りに来て、湯の注ぎ口の蓋を開けて中をいじっているのを目にします。以前からどうやって1℃精度で温度を調整できるのか不思議に思っていました。見渡すところ、源泉からの湯が一度大きな湯槽に入り、そこから各浴槽に供給されているだけなので、湯温を変える機構が見当たりません。したがって浴槽の温度は注入される湯量と入浴者の熱容量のバランスで決まるしかないはずです。そこで密かに湯口の蓋を持ちあげてみると、中には予想した湯量調整用バルブがなく、湯が出てくる30cm程のパイプとその下に挟んでいる木の楔があるだけです。どうやらパイプの根元に楔を挟み込む位置で角度を変えて湯口の高さを上下に動かし、湯量を調整しているとわかりました。これはまさに昔、理科で習ったベルヌーイの定理で、貯水槽からの排水が出口の位置エネルギーが低いほど流量が多くなることの活用です。鹿の湯の開湯は舒明天皇の時代に遡り、現建物は明治時代とされていますが、昔の人がベルヌーイの定理を知っていたはずがなく、この温度調整の簡単な仕組みを経験から発明し、先人の知恵として今の世に引き継がれてきたものと思います。この方法はバルブのように酸性湯で腐ったり詰まったりしない、実にメンテ性に優れた湯量調整機構です。また各浴槽の入浴者数と浸かる回数は低温の方が多く、高温になるほど人数と回数が減ってくるので、湯量とのバランスで番頭さんがそんなに頻繁に各浴槽の調整をしなくても済むのも肯けます。

鹿の湯の湯質はPHが3弱の酸性低張性高温泉で皮膚病等に良く効き、特にカミさんは湯に浸かること一発で足の魚の目が消えたので、同じ効果があったジョージア(旧グルジア)のトリビシ温泉と双璧をなすと絶賛しています。また女性風呂には48℃浴槽はなく、母体に気を使って大事なものが温泉卵にならないようにした、これも先人の配慮と思われます。
昔の先人の知恵を巡らして想いにふけって長湯すると、強酸性の硫黄泉のために肌がかぶれてひりひり状態になりますので、ここいらで上がらせていただきます。

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