[神隠しは真相と紙一重]2020/11/05

今年の緑綬褒章が,一昨年に山口県の行方不明になった2歳男児を警察捜索よりも先に山中で捜し出し救った,スーパーボランティア尾畠さんに贈られます。彼はこれまで全国で被災地支援や行方不明者の捜索に参加してきており,「自分のやりたいことやってきただけ」と受章の知らせに,いつも通り屈託のない表情とニュースは伝えています。先の成功も幼児の行動パターンを念頭に置いた経験ある捜査方法が実を結びました。

国内の行方不明事件は年8万件以上発生していて,ここ3年間の未解決数は年約3千件近くで推移しています。その中で,ある日突然,何の前ぶれもなく人が忽然と姿を消して迷宮入りになる事件,「神隠し」は過去に数多く起きています。昨年でも山梨県道志村のキャンプ場で 小1の女児が忽然と行方不明となり,いまだ未解決です。神隠しの原因は,主に拉致・誘拐,迷子・家出,殺人事件によるものが多く,10年以上経てからひょんなことから殺人事件としての真相が明らかになったケースもあります。事件発生後に起こる問題はニ次被害で,親近者が疑われるケースが大半になります。

私も屋久島で神隠しになりかけたことが有ります。有名な縄文杉から峰一つ隔てた所の龍神杉を新登山道ができたので拝めると友人夫婦と一緒に出掛けた時のことです。友人達より先に龍神杉に辿り着いた私は荷物を置いて,待つ間にすぐ近くにあると聞いていた別の屋久杉を探しに木々の中に足を踏み入れました。20m程先に見える巨木がそれかと急登して辿り着くと屋久杉では有りません。引き返そうとしたところ,一面の枯葉で足跡が消えて山道から入った場所がわかりません。龍神杉の巨木が目印だと,来た方向に見える大木を目指して引き返したところ,屋久杉では有りませんでした。私は完全に森の中で迷ってしまったのです。さらに自分がとんでもない失敗をしています。全荷物;スマホ,コンパス,水,食料をすべて龍神杉のところに置いてきているのです。

青くなった私は「ヤッホー」を何度も連呼して随分長い時間が経った後,友人の呼応する声が返ってきました。呼び合いながら声の方向に進んで,やっと山道,それも下方に300m離れた場所に戻ることができました。友人夫妻は荷物が残された龍神杉の前で,下から登ってきた私を不思議な面持ちで迎えてくれました。その数分後には辺りは霧で真っ白に覆われて何も見えなくなりました。宿に戻ったその夜は島に大雨が降り,ずぶ濡れで食料もなく震えている自分を想定すると,確実に遭難して荷物を置いて蒸発した神隠し事件になったなと,改めてゾ~ッとした次第です。実は屋久島での遭難者の40%以上は道迷いが原因です。
( https://bit.ly/2HVW7vF )

ところで,コロナ禍の対策としてデジタルデータ活用がクローズアップされています。韓国,台湾,香港でのスマホ活用の感染者追跡や中国での監視カメラ網での成果です。日本もそれに倣いつつあり,犯罪や行方不明の解決にも役に立つと思います。でもイギリスの犯罪者ICチップ植込み追跡策やオーウェル著「1984年」に表されている監視社会までにならずに済ませたいところです。今後5G社会の発展は期待できますが,デジタル改革に頼れるところは任せ,個人ベースでは基本的に単独行動はしない,お互いのコミュニケーションを図ることが行方不明や犯罪の撲滅や協調社会の形成への鉄則の様に思えます。

[富士山のふところでキノコ狩り]2020/10/22

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台風が過ぎ去って秋らしくなり,初冠雪のあった富士山に恒例のキノコ狩りに行ってきました。富士山はいつ見てもどっしりとして素晴らしく,広い裾野は中腹まで苔むした樹林で覆われた秘境になっています。林道の奥まで入山が許されていて,カラマツ林の中に足を踏み出すと,そこにはたくさんのキノコが雨後に顔を出しています。コロナを忘れて清純な空気を胸に一杯吸いながら目を凝らすと,遠くの倒木の間に生えているキノコを発見でき始め,通称キノコ目になります。山野にキノコを見つけて採る喜びは,私のような都会人には新鮮で,5年前からはまっています。

キノコは知ると面白く,キノコと呼ばれるものは菌類の花のようなもので,菌類がつくる子実体(胞子を散布するために作る器官)の俗称です。菌類は木や腐葉土の中で糸状の菌糸の形で生活していて,有機物を分解吸収して,成長して一時的にキノコになって胞子を飛ばし,繁殖を繰り返しています。キノコは森の中で倒れた樹を土に帰して,森のリサイクルを担っているのです。問題は食べられるキノコと同じ様な容姿の毒キノコが存在していて,最近でも道の駅で毒キノコが間違って売られて中毒を起こした事件が起きています。海外で「死の天使」と異名をもつドクツルタケは1本食べただけで,その日に嘔吐,下痢等のコレラ様の症状が起き,その後に治まるが,約1週間後には肝臓や腎臓の組織が破壊されて死に至ります。その様な恐ろしいキノコ達にも時々樹林の中で出会います。(https://bit.ly/33U4MXZ

今回のキノコ狩りはショウゲンジという総ての料理に合うキノコがお目当てで,富士山の3合目から4合目上あたりまで樹林の中を直登したのですが,思ったほど取れずに下山し始めた直後に,初めて見る大きなキノコに遭遇しました。傘の径が11cm,柄の太さが4cmもあり,仲間からは非常に珍しい「オオモミタケ」だと言われ,最高の獲物になりました。下山して,キノコの最終鑑定を毎回頼んでいる土産物店員に見せたところ,「これはソテーにすると美味しいわよ。でも切った傘の下に20cm程の長い柄があったはずなのに。素人はいやになるわ!松茸の傘だけ取って柄を捨てて来るようなものよ。」と言われ,喜びが後悔に変わってしまいました。

さて,採って持ち帰ったキノコは家族に素直に食べてはもらえません。野生のキノコは店頭に並ぶキノコとは容姿が異なり,傘がヌメヌメしたり,裏がスポンジ風であったり,まず毒キノコと疑われます。私がまず食べて翌日にまだ生きていれば,やっと口にする慎重な手順が踏まれるのが我家の習わしです。そのため食用と認知されたキノコはまだ4種類だけです。初顔のオオモミタケを調べたら,素人が100万円拾うより難しく松茸に匹敵するキノコと明記されていたので,疑問視されずに直ぐソテーにされて食卓に並びました。食べてみるとエリンギより食感が良く,キノコの旨みが口いっぱいに広がって大好評で,自動的に我が家の5番目の認知キノコになりました。

ところで,富士山はふところが深く,春になれば格好の山菜採りの原野を提供してくれます。地元の東富士入会組合に入会料を支払えば,陸上自衛隊の東富士演習場に非演習日に入れて,広大な原野でのワラビや山ウド等の山菜が一杯に採れます。一昨年は春先に行われる野焼きの日に雪が降って中止になり,山菜は不作になりました。地球温暖化による影響は富士山頂付近でも顕著で,永久凍土が激減していて植生が変わってきています。でも溶岩台地を樹林に変貌させたキノコ(菌類)は,地球温暖化で人類が滅んでも絶滅せずに営みを育むでしょう。これからもキノコの恩恵に感謝をしながら,富士山のふところでキノコ・山菜採りを続けていきたいと思います。

[あなたが信じるRealityは事実?]2020/10/01

最近のVR(Virtual Reality)技術の進展は目を見張ります。この新型コロナ禍で離れた遠隔地でも同一体験が可能なため,一挙に商用化が加速された感があります。ライブ配信でもスマホがあれば立体ライブが楽しめるというサービスがあると聞いたので,アプリを入手して視聴してみたところ,その臨場感は予想以上でした。その筆頭が「REALIVE360」で,4K/8Kの高画質,マルチアングル,立体音響が特徴で,スマホの画面をステージ上の奏者の間に立つようにパーンして,奏者の手元を見まわしながら動くと音源の方向がそれにつれて変わっていく,さながらバンドの一員になったかのような錯覚を覚えました。

ご存知の様に,VR(仮想現実)は仮想世界に人間が入って体験する技術ですが,似た技術としてAR(拡張現実),MR(複合現実),SR(代替現実)と相次いで脚光を浴びています。これらの技術は知らない内に,既に私たちの生活の中に溶け込もうとしてきています。

ゲーム「ポケモンGO」は,現実世界(風景)に仮想現実のデジタル情報(キャラクタ)が一緒に写しだされ,あたかも一緒にいるように思わせて楽しませてくれます。これにはAR(Augmented Reality)の技術が用いられています。ゴルフ中継でも距離ラインやボールの軌道が映しだされ,またサッカー会場では放映される広告が国別,地域別に異なったスポンサー表示に置き換えられているのをご存知でしょうか。さらに今月末に国立博物館の聖徳太子の絵伝展示にAR/5G技術が使われ,聖徳太子が天空をかける様子が生き生きと再現されると報じられています。

ところで,21年前の今月に映画「マトリックス」が日本で公開されました。人類とコンピュータの戦いを描いたSFアクション映画で,キアヌ・リーブス主演のそれまでのCGを凌駕する斬新映像に驚かされた方は多いと思います。物語はコンピューターによって創られた仮想空間に生きているのに,そのことに全く気がついていない人間世界が描かれていました。まさに現実世界に別世界の映像を差し替えて体験させるSR(Substitutional Reality)技術の究極舞台です。ここに来てAIの進展も著しく,映画の世界が荒唐無稽でSFだと考えていた時代が,なつかしく思い出されます。

SRを使えば,故人を出現させて,昔の出来事があたかも現在に目の前で起きているかのような錯覚を引き起こすことが可能です。こうなると,直接目にして現実だと確信する事象が錯覚であれば,何が事実かわからなくなります。既に現在の世界では,GAFAの情報独占やSNS発信等によって事実とフェイクの区別が難しくなってきています。

ユヴァル・ノア・ハラリ氏は数あるベストセラーの中で,自己を知ることが難しくなっている現在を解析しています。その1冊「21Lessons」の最終章で自身の日課としている「瞑想」を取り上げ,自己を知ることが事実に接触できる機会であると述べています。今,皆さんがReality,事実と確信することが,フェイクでないと何をもって証明できますか。

[がんばれ 癒しの島々]2020/09/03

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鹿児島から西へ約30キロの東シナ海に甑島(こしきしま)という離島があり、地質学的に興味が有って8月下旬に屋久島への用があるついでに寄ってきました。串木野からフェリーで1時間ちょっとで島に着くことができ、新型コロナ対策で検温、対策行動の宣誓書にサインをして上陸が許されました。甑島には約8千万年前の白亜後期(カンパニアン階)の天草から続く姫浦層群の地層が露出していて、恐竜やアンモナイトの化石がでています。暗黒色の泥岩と灰色の砂岩が幾重にも連なる地層が東に傾斜して海に落ち込み、200m高さの断崖や巨大な奇岩が織りなす風景は見たことが無く、目を見張りました。

甑島は上甑島、中甑島、下甑島の3島からなり、全島で5千余人の住民と自衛隊の最新鋭警戒管制レーダーが設置されています。2015年に国定公園に指定されてから観光に力を入れて、今年は8月から2ヶ月間でフリーチョイスと名付けた観光クーポンを始めました。船便、宿、断崖クルージング等を含めた島内体験アクションをセットすれば、GOTO トラベル同等の補助が付くので、今回はこれに便乗した次第です。かまどや囲炉裏がある民家一軒家を借りたところ、石垣で囲まれた武家屋敷の風情が残され、道で会う島人も素朴で人懐っこく挨拶を交わしてくれるので、すっかり甑島に虜になってしまいました。ところが、台風8号が北上してフェリーが欠航となる知らせで急遽甑島を離れ、これも条件付きの飛行便で屋久島に降り立ちました。その後は、海が時化て甑島、屋久島共にフェリーの欠航が続いたので、慣れているとはいうもののギリギリの旅程変更でした。

ところで、甑島および屋久島へのバス、飛行機の交通機関は新型コロナ禍のため減便しても私共を含めて数人!の乗客で、宿を始め食事処はガラガラもしくは休業の状態です。甑の宿も予約の問合せをした際に、「どちらからですか」の問いに「神奈川と埼玉から」と答えたら、「一日、主人と考えさせてください」と言われ、翌日にやっとOKの返事をもらいました。コロナ怖し、しかし生活は立たずの端境で悩んでいることが如実に伝わってきました。今年に訪れた石垣島、西表島、屋久島でも同じ状況に悩んでいます。

さて、船でしか渡れなかった上・中甑島と下甑島を繋ぐ、島民の長年の悲願だった甑大橋1.5km長が、8月末に9年を要した難工事を経て開通しました。全国版のニュースで豊島園の閉園が大きく取り上げられた日に、鹿児島版のローカルニュースでささやかに、島民が鹿児島最長の甑大橋開通で観光客がドンドン伸びると喜ぶ声が報道されました。離島の素朴さが失われないことを祈り、甑島をはじめとする癒しの島々に新型コロナ禍を克服して頑張れとエールを送りたいと思います。
尚、旅行内容は旅行記のプログに2編を掲載しています。

[見上げてごらん、きぼうの星を!]2020/08/20

「見上げてごらん、夜の星を・・・・」は坂本九の大ヒットソングですが、彼は惜しむらくもJAL123便の御巣鷹山への墜落事故で不慮の死を遂げました。その日に私は家族と一つ山を隔てた八ヶ岳の白駒池でキャンプしていたので、夜空を捜索機が行き通い、翌朝に多数のヘリが飛び交った大騒ぎを覚えています。それから35年を経た今夏の新型コロナ騒ぎの真っただ中、星になった九ちゃんを偲ぶとともに、夜空に星を見上げることが多くなりました。それは、日本初の有人実験施設「きぼう」をドッキングした国際宇宙ステーション(ISS)が観察できるからです。

ISS(International Space Station)は1998年から建設が開始され、2011年に完成した人類史上最大の宇宙施設で、アメリカ、ロシア、日本、カナダ、欧州など世界15ヶ国が参加しています。ISSは地上約400kmの軌道を地球1周約90分で回っていて、居住と実験室の与圧モジュールと船外機器の設置場所トラスから構成され、サッカー場サイズの大きさです。「きぼう」は米国と欧州のモジュールとドッキングしていて、内部は1気圧で宇宙飛行士が普段着でISSの他のモジュールと行き来をすることができ、微小重力環境や宇宙放射線などを利用した実験や天体観測・地球観測が行われています。

直近の今年5月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」がH-IIBロケット9号機で種子島宇宙センターから打ち上げられ、同月下旬にISSにキャプチャ成功の報道を覚えておられる方が多いと思います。今回の輸送で従来のニッケル水素電池から日本のリチウムイオン電池への交換を総て終え、ISSの2024年までの運用が可能になりました。同時に生鮮果物が届けられ、宇宙飛行士が喜んで日本の農家・生産者に感謝する映像がJAXAに送られてきました。

ISSは、夜明け前か日没後に太陽光を受けて一等星シリウスより明るく光り、流星よりゆっくりと約3分間ほどの間に天空を飛来するので、8月初旬に肉眼ではっきり見ることができました。NASA、JAXAがISSの観察サイトを設けていて、ISSの軌道や各国都市での観察最適の日時を知ることができます。( https://lookup.kibo.space/

JAXAサイトには撮影した画像を投稿するコーナが有り、天体望遠鏡による画像に混じってスマホで撮影した拡大画面でISSの姿がおぼろげにも写っているのもあり、最近のスマホ技術には驚かされます。また、日中には見えないと思いきや、太陽面を通過するISSの影絵を写した投稿もあり、天文愛好者のプロ顔負けの技術には感心することが多いです。

皆さんも8月下旬の未明からまた見え始める、日本の輝く星「きぼう/ISS」を見上げて、小惑星探査機「はやぶさ2」とともに、日本の宇宙技術の快挙にエールを送りませんか。

富士山でワラビ狩り 2021/05/07

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新型コロナと無縁の富士山裾野へ友人と山菜採りに出かけ、美味しいワラビ、ウルイを収穫してきました。自衛隊の北富士演習場が5月初から9日間にわたって開放されたので、ほとんど誰もいない原野に入って半日ほど無心に山菜を摘みました。収穫後は早速あく抜きをして、ワラビの鰹節醤油かけと、ウルイのホタルイカと竹の子のみそ酢和えを美味しくいただきました。詳細はフォートラベル( URL : https://4travel.jp/travelogue/11691740 )をご覧ください。

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[スケッチでコミュニケーションを図ろう]2020/07/30

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仏教伝来やシルクロードをテーマに創作活動を続けた日本画家の平山郁夫が、スケッチは日常訓練であると言って、毎日数百枚のスケッチをこなして、感動的な絵画へ結実させました。スマホ写真が流行する現代では、いつでも無数に撮れて消せるデジタル写真でインスタバエするシーンが得られれば仲間に投稿してもちはやされます。私の様に、いまだにスケッチブック、水彩道具を出張時にもカバンに忍ばせてスケッチをする人間は、ときには異人種の様に見られることが多いです。

中国の水郷が残る上海に近い観光地の西塘で運河のスケッチをしていたところ、余程珍しいのか私の横に座って記念写真を撮る若者が多く閉口しました。何か記念写真に相応しい変人のオブジェと考えたのでしょう。それだけでなく、私の前に立ちふさがった若者が、カメラを私の目の前にぶら下げてきて、俺の写真を撮れと要求してきたのです。わざわざ手で書かなくても、写真で撮ればいいのにと言わんばかりでした。このことを友人に話したところ、お前の絵を評価して良い写真が撮れると思ったのだろうと慰めてくれました。

異国の旅先でスケッチをする時に出会う、人々との反応を楽しむことができます。全く無視される場合、不思議に思われる場合、遠巻きに絵を覗かれる場合、話しかけてくる場合の主に4通りがあります。最初のケースは専門性が非常に高くて忙しく、ニューヨークの様に仕事に走り回っている都会人です。絵を描く経験が無いところでは、隣に座ってじーっと見ていた若者からお前は何を何のためにしているのだと質問をうけ、1時間ほど美術談議をしたことがカトマンズでありました。欧州や海外旅行者の多いところでは、暫し立ち止まって覗いてきたり、色々話しかけて評価をくれることが多いです。パリのロダン美術館の隅で描いていた私のスケッチを二人のご婦人が覗き込んで、おしゃべりをし合った後にトレビアンと言って飴玉を渡して立ち去りました。それ以来、その言葉を前向きに解釈して、どこでも描くのが平気になりました。

平山郁夫が、「スケッチは感激を得たら、今描いているものと心の中で対話して、相手の中にあるものを吸収していく。その対話で生まれた新たな興奮を一本の線の中に込めるものです。」と教えています。確かに、白い画用紙に最初の一線を描くのにいつも緊張します。特にボールペンで描いて水彩で着色することにこだわっているので、後での修正や塗り重ねが許されません。さらに写真と違って描いているうちに対象物の中に新たな発見をすることが必ずあります。それゆえに一つでもスケッチが描ける時間を持ちたいと常日頃、その機会を探っています。

しかし、ここに来て新型コロナパンデミックのために遠出できない状況のために、逆に著名な画家のタッチ、彩色を見て勉強する好機会と捉えています。それは、Google Arts & Culture( https://artsandculture.google.com/partner )が2000に及ぶ世界の美術館と協賛してオンラインで絵画の鑑賞を可能にしているからです。皆さんも世界の美術館を巡って、お好きな絵を居ながらにして鑑賞されてはいかがでしょうか。下記のサイトではオルセー美術館内のゴッホの自画像を歩いて閲覧できます。( https://bit.ly/3o6Z6T8
総ての美術館を巡るには一生かかっても無理な量のコレクションが展示されていて驚きです。この便利さには圧倒されて自らが埋もれそうですが、それでも良いような気がするのは私だけでしょうか。

[エベレストBCに行ってみませんか]2020/07/09

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「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。」これは松尾芭蕉の「奥の細道」の書き出しの一節で、芭蕉は江戸を出発し、東北地方、北陸地方を経て岐阜の大垣までを150日間で巡りました。道中で「夏草や 兵どもが 夢の跡」などの名句を幾つも詠まれ、人生とは旅であるという人生訓を後世に残しています。いつかその旅跡を巡りたいと思っていますが、今は県外移動の自粛、ソーシャルディスタント等のいろいろな関所が存在し、旅人になれないのが現状です。それゆえ旅に出たい思いが募る一方です。

そこで一計を案じて、過去に行き損ねて再度トライしたい旅に出ることにしました。Google MAPのストリートビューを使えば、私が好きな世界の辺地まで足跡を画像で提供してくれます。まず手始めにイグアスの滝の悪魔の喉笛に行くことにしました。ブラジル側からの眺めは素晴らしかったのですが、アルゼンチン側では橋が流されて悪魔の喉笛に近づけなく残念な思いが残っています。見覚えのある出発点からストリートビューを始め、通行止めになっていた橋の先を進み、終にいくつもの濁流が奈落して白煙が上がっているイグアスの滝の心臓部に辿り着きました。360度ビューの対岸には以前行ったブラジル側が写り、悪魔の喉笛が発する怒号が6年前の経験から蘇りました。
http://ur0.work/VXly

次に訪ねたのは、エベレストBC(ベースキャンプ)です。カトマンズからルクラ空港に降り立ち、エベレスト街道を8日間程歩き通せばエベレスト直下のベースキャンプ(標高5300m)に辿り着きます。ネパールへは既に5回訪問し、最後のトレッキングコースとして残しておいたのですが、今年を逃して、腰痛と高山病で往復2週間の山旅はもう無理と判断しています。まず、世界で一番危険なちっぽけなルクラ空港をGoogle MAPで久しぶりに眺めた後に、ストリートビューでキャラバン隊のゾッキョの群れと一緒につり橋を渡り中継基地のナムチェバザールに辿り着く。そこからは人家がほとんどない斜面に切り立つ山道をひたすら進み、雪を抱くアマ・ダブラムを過ぎ、ローチェ、エベレストを仰ぎ見る領域に入り、やっとアマチュア登山の限界点、エベレストBCに辿り着きます。360度のエベレストをまじかに見る素晴らしい眺めを、凍える心配がない自宅でワインを片手に楽しむことができました。
https://bit.ly/33rPdWn

紙面の都合で割愛しますが、あまりにもボケーとして一日を過ごしたマチュピチュ、行きは良いよい帰りが恐かった西塘の筆話旅、行ってみたいアイスランドの火口探検、など訪問したい場所が沢山あります。皆さんも臨場感のあるストリートビューで旅巡りをして、新たな発見を求めていかがでしょうか。

いままで旅によって、見知らぬ風土、歴史とその土地の人との交流でエネルギーを得ていた私にとって、やはり、兼好法師の徒然草序段の一文が現在の心情を良く表しています。「つれづれなるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」

[新型コロナ禍での確率問題]2020/06/25

新型コロナ「パンデミック」によって皆様方のビジネスが相当な痛手を負っているのではないかと、懸念されます。私が参加する、小学生対象の科学くらぶや高齢者の健康普及活動も不要不急の活動にあたるとして中断を余儀なくされました。そのため科学くらぶでは在宅の実験課題を休学中の子供達にメール配信することになり、そのテーマの一つに、コロナ感染ニュースで良くでてくる確率や統計の話を取り上げることにしました。

確率で直ぐに思い起こすのは、コインやサイコロの数学的確率です。サイコロの各目が等しく1/6の確率で現れることを理論的に当然と思っていたために、今まで自分で試したことは有りませんでした。そこで孫にサイコロを100回以上転がせて実験して均等に近く各目がでることを確かめ、次に2個のサイコロを同数回投げて出た和の一番多い数が7になり、これで実験教材が仕上がりと喜んだのですが、次の課題が待ち受けていました。

それは全家庭に必ずしもサイコロがあるわけでないことです。無い場合に、外出規制の折に百均ショップでの購入を勧められず、サイコロ自作方法を加えることになりました。手始めに展開図を切り抜いて作った紙サイコロは均一な目が出ず、軽いのが原因と輪ゴムを巻き付けて重くしても滑らかに転がらなく失敗作でした。では、数字を着けた回転コマでは、紙型ルーレットでは、授業中によく遊んだ鉛筆転がしでは、等の色々な手作りサイコロを試す羽目になりました。さらにサイコロの評価方法に理論付けが欲しいと本末転倒な意見も出てきました。結局、消しゴムを立方体に切り出して目を書いたサイコロがχ2乗分布による評価値で優れ、このサイコロ作成法を付録にして確率実験を子供達に配信できました。

ところで、新型コロナの感染予測や外出規制政策の検証が毎日の様に報道されています。SIRモデルによる感染症シュミレーションでは、S(非感染者)、I (感染者)、R(回復者)の遷移モデル(S→I→R)に感染率βと回復率γの速度定数を入れた化学反応と同様の式を立てて、感染予測の数値計算ができます。一般的には、非感染者Sが減るとともに感染者Iが増加してピークを迎え、回復者Rが増えるグラフになります。この時、再生産数R0(=β/γ)が1より小さいと流行が起こらないという結果がでます。

そこで、感染率が必要なのですが、感染者数が日本では限定したPCR検査の結果のため分からないのが現状です。また海外各国のPCR検査による陽性率を参考にするにも、新型コロナ株が変異してアジア株より欧州株が強いとか、BCG接種の実施されている東南アジアでは新型コロナに罹りにくいとの説もあって、抗体検査や感染第二波の予測も含めて新型コロナウイルス解明には、今後も相当の月日が必要と思われます。

また、PCR検査の精度が重要で、条件確率のベイズの定理で良く取り上げられる病気の確率の例題があります。感染者が陽性反応を示す検査精度が99%で、非感染者でも1%が陽性反応を示して誤診になるとします。国内での感染者の割合が0.1%の時にあなたが検査を受けて陽性反応が出た場合、本当に病気に罹っている確率は何パーセントでしょうか。答えは9%と低い確率になります。この例では、健康な人が多い中で誤診率が1%もあるためで、いかに検査精度が重要かが確率から導き出されます。簡易検査方法が昨今、幾つも提案されてきていますが、検査精度が重要な課題になると思われます。

さて、子供達と対面できる暁には、確率の利用方法や「直感がいつも正しいとは限らないこと」について、例えば天気予報や、ギャンブルや、クラス仲間で同じ誕生日の人がいる確率が50%もある、等の面白い話ができることを楽しみにしたいです。

[日本沈没第二部]2020/06/11

ようやく全国の新型コロナ感染の非常事態宣言が解かれ、段階的に日常へ復帰していくことになりましたが、この間をどのように過ごされたでしょうか。日経新聞が調査した、「在宅で見つめ直した日常」で挑戦したことのランキングには、第1位に家財の断捨離・掃除、第2位は家の中で出来る運動、第3位に録画や本など眠るコンテンツの消費が並んでいます。我家ではこの機会に断捨離の予定でしたが、在宅勤務になった娘と保育園を締め出された孫達が都内から疎開で転がり込んで来たため、「今までにない日常」の日々を体験することになりました。孫達が家の隅々からいろいろなものを見つけておもちゃにしていた中に、ある本を目にしました。それは昨年亡くなった本好きの弟から昔にもらった「日本沈没第二部」の本でした。

「日本沈没」は、ご存知のように、日本列島が沈没して日本全国民が海外に脱出するというSFで、小松左京が東京オリンピックの年(1964年)に書き始めて出版し、大ベストセラーになりました。日本列島直下のプレートの沈み込み帯にあるマグマ層が膨張し、地殻の亀裂を抜けて富士山が噴火し、浅間山や他の山々がそれに続いて火を噴いて大地が裂け、寸断された日本列島が日本海溝の深淵に向けて落ち込んでいきます。マグマ層の膨張は下部マントルにスラブの大規模な崩落が原因でしたが、このために生じた大規模なマントル対流は地球自転軸の変動をもたらしていて、実は日本列島の沈没が単なる前触れに過ぎなかったのです。

「日本沈没第二部」は第一部の33年も経た後に出版され、日本列島沈没で全世界に漂流した日本難民の日本再生の物語です。苦境の中でも地球シュミレータとメガフロート(人工の浮島)の開発を進めて日本の領地復活を試みようとします。ところが、全世界的な寒冷化現象が生じ始めたために、日本人によるアマゾンなどの未踏地開墾がその原因だとされて迫害されるに至ります。しかし、日本の両技術が世界に共有されて人類滅亡が最終的に救われることになります。エピローグでは、宇宙に飛び立つ日本人移民を乗せた恒星間航宙船から眺める地球が映しだされます。地球シュミレータの予測通りに北半球の半分が氷に覆われ、低緯度地域には10億人規模の入植で変貌した穀物地帯が続き、赤道直下の海には一つに1千万人が居住する多数のメガフロートが浮かぶ、国境が無くなった地球の姿です。

小松左京は、執筆当時に戦後20年の高度成長時代で浮かれている日本に、戦争と同じく国を失うというフィクションの中で危機感に直面させ、これでいいのかという問いかけをする意図で日本沈没を書いたと述べています。第二部は、地球生命としての人類の概念から世界で日本人が生きていく意味を問い続けて、作者がSF作家とプロジェクトを組んで完成しました。

今年は折しも作者が執筆開始した時と同じ東京オリンピックであったはずの年に、日本沈没に替わって新型コロナ感染が世界を混乱に陥れています。作者が案じた日本の存在意義がこれまでにどこまで高まったかは胸を張れないところと思われます。技術立国には霞が漂って久しく、「おもてなし」によるインバンド目当ての観光立国の熱は冷やされ、まずは今後の日本経済再建を急ぐことになるでしょう。そのなかで日本が世界に、低感染率、低死亡者数の要因を解明し、今後とも付き合うであろうコロナ対策:予防療法(遺伝子)、治療薬、紫外光等の殺菌機器、可視化シミュレーション等、を積極的に技術発信、プロジェクトを進めていくことを望みたいです。

[寝ているやつを起こせ]2020/05/28

新型コロナウイルスによる非常事態宣言でいや応なくテレワークやオンライン会議をせざるを得なくなった方々が非常に多いと思います。その結果、COVID-19感染が収まった暁には、オンラインによる働き方が今までになく浸透していくと思われます。ところで、私がテレワークを知ったのは実に40年前に遡ります。アメリカの未来学者であるアルビン・トフラーが1980年に『The Third Wave(第三の波)』を出版し、実際にロッキー山脈の山荘からバラボナアンテナを介して衛星通信で在宅勤務を実現している映像が飛び込んで来た時には、こんなことができたら仕事人の夢だと驚きました。

この時、既にトフラーは人類が第一の波:農業革命(人類が初めて農耕を開始した新石器革命)、第二の波:産業革命を経験し、これから第三の波:情報革命による脱産業社会(情報化社会)が押し寄せると唱えました。一例として日本のHi-OVIS(奈良県生駒市での双方向映像配信実験プロジェクト)を挙げていました。それ以来、国内でもビジネスチャンスが到来としてテレコンファレンスのモデル運用が始まりました。私の会社では国内や北米の拠点間を結ぶ回線を利用して、早速に社内のテレコンが開始されたのです。

ある時の昼下がりに本部と筑波、関西の3拠点間を結んだ所内会議が行われ、いつものように各拠点の出席者の画像が交互に写しだされました。最後に所長の会議総括の話が始まってから程なく、良く見ると関西地区の部長が机にうつぶせになり、毎回その映像が変わることなく写しだされたものですから、終に所長が「寝ているやつを起こせ!」と怒鳴るにいたりました。それでも彼が目を覚ますことはなく会議が終わってしまいました。このことで、テレコンは臨場感が無くて駄目だという実例にもなったのですが、実は彼にはとんだ濡れ衣であることがしばらくして判明しました。彼は眠っていなかったのです。当時の回線は細くて不安定なため、運悪く彼が書類を良く見るために顔を机に近づけた瞬間に映像がフリーズし、そのままテレコンで変わることなく流されていたとわかりました。

現在の通信インフラは5G(第5世代移動通信システム)の世界に突入し始めたところで、このような話は全くのお笑い種になりました。5Gは従来に比べて「高速大容量・低遅延・多接続性」において格段に性能が向上し、現行4Gの世界に比べて20倍の通信速度、遅延は1/10の1ms、同時接続が10倍になります。それによって、高品質な画像伝送や自動運転、遠隔手術、様々なIoTの実現、多視点でのスポーツ観戦等、が快適なデータ通信のもとに可能になると期待されています。5Gによって私達の生活がさらに便利に豊かになればこの上ないことです。

ところで、この春先に予定されていた各分野の学会、展示会はほとんどが現地開催を中止せざるを得なくなりました。そのために、いろいろ知恵を絞って、テレコン用アプリを導入して実施した学会や小会場のリアル開催にテレコンを組み合わせた学会、さらにオンラインBanquetまで実施した学会も有ります。展示会も既にバーチャル展示会をオプトロニクス社が行っていますが、今回をきっかけに3密を避けたり、バーチャルを織り込んだ展示会など今後はより優れた企画が増えていくことになるでしょう。またプライベイトにはSNSで常時にネット接続が当たり前になってきた世界が、今回の経験で仕事にも出勤レスのテレワークが当たり前の世界に豹変しそうです。ポストCOVID-19の世界では、リスクやフェイクが抑えられ、トフラーが描いた世界が共存する真の情報化社会に進んでいくことを期待したいと思います。

孫達の初登山記:屋久島(白谷雲水峡・太鼓岩)2020/12/05

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去年の暮れにGOTOトラベルのお蔭で孫達を初めて屋久島に連れて行くことができ、一緒に白谷雲水峡の登山を楽しみました。長男(6才)は大人でも難しい太鼓岩に挑戦して完登、次男(4才)は苔むす森まで行き、初めて屋久杉に触れることができました。休憩を入れた全行程で5時間余もかかりましたが、孫には野生の猿鹿に会うよりは、登山体験が屋久島の最高の記念になったようです。一つ惜しかったのは、太鼓岩から宮之浦岳を眺める景色をご褒美にあげたかったのですが、天気が悪くてタイトル写真(背景合成)のようにならなかったことです。詳細はフォートラベル(URL:https://4travel.jp/travelogue/11677874 )をご覧ください。 

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登頂達成で万歳だが何も見えず太古岩の天辺
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12回もコケたが白谷雲水峡の初登山完徹!

[時間は粒々になる]2020/05/15

「時間の流れは、山で速く、低地では遅い。」と言われて、皆様はどう受け止められるでしょうか。相対性理論をご存知の方でも、正論ではあるが、ちょっとオーバーな表現と感じられると思います。ところが今年4月に、東大の香取秀俊教授が東京スカイツリーの展望台(450m)では地上より時間が1日で4.26ns早く進むことの測定に成功したのです。いままでは約1万km以上の高度の宇宙空間と地表の間では相対性理論から重力差による時間の進み方に差があることが、人工衛星にセシウム原子時計を搭載して測定されてきました。今回は原子時計よりも優れる18桁精度の香取教授が開発した可搬型光格子時計を用いることで、従来より1万倍以上少ない高低差で、宇宙間と同等の高精度測定を実現したことになり、画期的な技術として発表されました。

すでにカーナビがGPS衛星からの電波を利用して三角測定法で車の現在位置を計算していることをご存知だと思います。既に述べたようにGPS衛星に搭載している原子時計と地上の原子時計とは相対性理論により時間の進み方が異なっています。詳細にはGPS衛星の原子時計は地球から約2万km離れた軌道を約4km/sの高速で周回しているので、高速移動している時計は静止している地上の時計より遅く進みます。また重力の弱い軌道にいる時計は地上の時計より早く進み、これらの特殊および一般相対性理論を合わせた効果により、1日あたり約40㎲早く進みます。このためにGPS衛星搭載の原子時計は遅くなるように周波数がオフセットして設定され、また各搭載の原子時計の誤差があるので、地上の国際原子時と定期的に時刻合わせを行っています。

カーナビは4つのGPS衛星からの電波を受信して、車の位置(x、y、z)と時間誤差(Δτ)をDPS処理で求めて表示しているのですが、演算に時間がかかるため、測位の繰り返し周期とMAP表示までの遅延(約1秒)が問題になります。最近のカーナビは、前者が10Hz測位が可能になったため急なカーブにも追従できる様です。また、1秒近くの遅延に対しても自車位置を先読みして補正できる機能を付けて進化しています。私の車のナビは古いため、時々カーブから落ちたところをさまよったり、道路が無い所を走っています。

ところで、遅くなったり、早くなったりする時間は、そもそも不思議な量子の世界にあることをわかり易く教えてくれる本があります。それは、『時間は存在しない』(NHK出版)で、ループ量子重力理論の提唱者、カルロ・ロヴェツリ博士が一般向けに「時間」にまつわる物理学を抒情詩的に描いた本です。本コラム冒頭の一節は該本の書き出しを引用させてもらいました。宇宙の時間構造は光円錐で表すことができ、その過去と未来の光円錐で挟まれた現在は感知できないくらいに短く、細分化していくと時間も連続でなくなり、粒状の最小の時間「プランク時間=10の-44秒」が存在し、時間の量子効果(揺らぎ、不確かさ)が現れると、説いています。時間は連続でなく、量子化されて粒粒であり、時間パラメータがなくなる不思議な量子重力理論の世界を垣間見ることができますので、一読をお勧めします。

新型コロナウイルス流行で無駄に時間が流れていくように感じる昨今ですが、この間にも先端技術が開発されて進展しているのは有り難いことです。先の高精度な可搬型光格子時計の実現は、プレート運動や火山活動などによる地殻の上下変動を数センチメートルの精度でリアルタイムに監視できたり、質量分布の変化測定で地球内部を探るセンシングも可能になります。さらに5G、AIやIotとネットワークでつながって、自動運転等の時空間共通プラットホームのインフラが実現される夢を見たいものです。

[友達の友だちは、私の友達]2020/04/17

中国武漢で勃発した新型コロナウイルスの感染は、日本での豪華客船ダイヤモンド・プリンセスの隔離騒ぎがもう過去の話になり、今や全世界に広がって各国が国境をシャットアウトや日本でも緊急事態宣言が出されるに至り、先の見えない事態に陥っています。今後は、各国の自国第一主義の政策が進み、また個人的にも自己中心の排他的な振る舞いが広がってくる恐れがあります。そこで、思いだすのは10年前にオスロで泊めてくれた知人夫妻のことです。

一度は北欧の旅をしたいと思っていたところに、友人がノルウェーの元軍人T氏と知り合いで、現地の情報を得るならばと連絡先を教えてくれました。これは渡りに船と、旅行本に詳しく載っていないノルウェー紀行について、初対面ながらメールで連絡を取り始めました。彼は気安く私の旅程の相談に答えるだけでなく、嬉しいことにオスロに寄った際に泊まっていかないかと言ってくれたのです。当然、彼の厚意に甘える旨を伝えました。

ノルウェーは日本とほぼ同じ面積に約500万人の少ない人口で優れた高福祉制度社会であり、自然が豊かですべてがリッチのように考えていました。しかし、旅行を始めて直ぐにわかったのは、実に物価が高いのです。必需品の付加価値税が15%程度に対して、贅沢品:例えばコーラもその範疇に入り25%の税率がかかり、安いファーストフードの昼食メニューでも3千円近くになります。当初のレストランでノルウェーサーモンをたらふく食べたいという夢はすぐに消え去りました。それでも安宿を探してYH等に泊まり、フロム鉄道でソグネフィヨルドの奥部に降り立って、世界一周旅行で立ち寄ってくる豪華客船を手弁当で眺めて過ごす時間が持てました。当時はクイーンメリー2の15万トンが最大でしたが、10階建てビルより大きな船体をフィヨルドの絶壁を背景に見上げて、さらに脇腹に小さく見える救命?ボートが桟橋に着くと100人もの乗客が降りてきて、スケールの大きさに驚かされたものです。羨望の的であった豪華クルーズ船が、世界の各港で難民ボートになってしまった新型コロナウイルス騒ぎを誰が予想できたでしょうか。

オスロでT・L夫妻のお宅を訪問して初対面の時に、「夕食前にMy Girdenに行きましょう」と誘われ、庭では無くて近くの公園に行きました。それは彫刻で有名なヴィーゲラン公園で、650体の人物像を主体にした多数の彫刻、モニュメントが置かれ、人生の縮図や輪廻を感じさせる広大な公園でした。美味しい手料理の夕食の際に、私達を初対面にも拘わらずに自宅に泊めてくれる御礼を言ったところ、L夫人から「友達の友だちは、私の友達。当然のことよ。」との返事があったのです。翌日は朝食後にランチのサンドイッチを一緒に手作りして、市内観光に出かけることになりました。L夫人は、「ムンク美術館やノーベル平和センターも良いけれど、とっておきのMy Theaterに案内するわ。」と、ガイドをしてくれました。それは、オスロフィヨルドを一望できる湾岸に立つオペラハウスで、前年の落成式には各国首脳が参列して盛大に行われ、屋根の上を歩ける北欧建築として市民の憩いの場になっていました。最初はMy Girden、My Theaterと言う言葉に違和感を覚えていたのですが、高い税金を払っているにかかわらず、その税金使途先が自分たちの役に立って還元されているから、My・・・と愛着をもって呼んでいるのだとわかりました。私達が公共設備をMy・・・と愛着をもって呼べる仕組みがあれば、心もふところもリッチになれるものと思えたのです。

T・L夫妻を思いだす時には、いつも、『友達の友だちは、私の友達。』、『My Girden、My Theater』の言葉が現れます。新型コロナウイルスの感染に立ち向かうには、物理的には隔離を強固にしても、人としては心のつながりを強固にして、資金対策はMy・・・と呼べる納得性のあるものにして、世界が調和を戻す日々が早く訪れるように祈りたいです。

白亜紀地層の絶景に触れる甑島体験紀行(partⅡ)2020/11/29~12/01

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8月の初回に訪れた甑島は台風接近のため上甑島巡りとクルージングだけの1泊だけで急遽離島したので、今回の2回目は開通した甑大橋を渡って念願の全島を踏破して甑島を十分堪能しました。白亜紀地層が織りなす海岸の絶景と恐竜化石に触れ、嬉しい民宿のもてなしに感謝した想い出に深い3日間の友人夫妻との4人旅でした。屋久島に行く折に立ち寄り、GOTOトラベルの代わりにフリーチョイスのご当地観光クーポンを活用して、リーズナブルな旅行を楽しみました。鹿児島に行った折には是非、甑島への島旅をお勧めします。立ち寄り地は冒頭の絵マップの青線ラインをご覧ください。詳細な旅行記はフォートラブル(URL: https://4travel.jp/travelogue/11674770 )をご覧ください。
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ナポレオン岩
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[人間センサー]2020/03/26

昨秋に那須で紅葉に映える駒止めの滝を見とれていた時、背後から「動かないで!」、「羽を広げて!」と叫ぶ声があり、やたらカメラのシャッター音がするので思わず振り向くとアサキマダラ蝶が私の右肩にとまっていました。鮮やかな青色の羽をもつアサキマダラは多くが秋になると南西諸島や台湾まで長距離を移動することが知られています。もうとっくに旅立つ時期に那須でウロウロしていると南に行けなくなるよと囁いたら、すぐに肩から飛び立っていきました。すると、「キャー!」の叫び声が上がり、今度は近くにいた女性の頬っぺたにアサキマダラがとまったのです。昨夜にたっぷりと温泉に浸かって硫黄臭かった私よりは女性の化粧の匂いがする顔を好むのは頷けるところです。暫く女性とのツーショットを楽しんだ蝶は、またひらりと空高く舞って視界から消えていきました。

近くに殺生石という有毒な火山ガスが噴出する名所が有って、鳥獣がこれに近づけばその命を奪うとされています。そのような場所に蝶が飛んでいるのを見かけたり、前夜の温泉匂う私の肩にとまるので、昆虫は嗅覚が鈍いと思い込んでいたのですが、実は昆虫が微量な匂い物質(例えばフェロモン、腐敗臭)を高感度で選択的にリアルタイムに検出でき、数km離れた特定の匂い源を探しだせる能力をもっているとのことです。最近は昆虫の嗅覚機能や嗅覚受容体を取りいれた匂い検出素子を開発して、カビ臭検査システムや爆発物の検出等への具体的な応用が検討されています。人間が使う感覚の割合は、視覚(83%)、聴覚(11%)、嗅覚(3.5%)、触角(1.5%)、味覚(1%)だそうです。人間にとって匂いの定性的、定量的な区分けはなかなか難しく、昆虫テクノロジーと工学との新しい融合技術に期待がされます。
そこで思いだすのは、10年前にモーターの開発で月の半分を中国に出張していた時の出来事です。精密部品のメッキを外注で安くできると聞きつけて上海郊外のメッキ工場を訪問したことがあります。大きなメッキ槽に椅子の足等がボンボン放り込まれている現場を見て、流石に大規模にやるものだと感心した後に、依頼した試作品のメッキはどこでやっているのかと尋ねると、あそこに入れていると先の家具と同じメッキ槽の隅を指さしたのです。こんなメッキ槽で数ミクロン厚精度がだせる訳がないと問うと、壁に有る測定器で温度を常時監視しているし、メッキ膜厚はこの膜厚計で正確に測定していると埃を被ったシートをのけて装置を見せてくれました。半信半疑で試作品が届くのを待ったのですが、やはり出来てきたメッキは仕様精度を遥かに一桁オーバーした代物でした。中国の知人にこの件を話すと、弁解して言ったことには、「測定器が有るメッキ工場はいい方だ。メッキ工場には『人間センサー』がいて、温度はメッキ槽に手を入れて測り、メッキ液のPHは舌で舐め、メッキ厚は泡の出方を見て決めている。ところが凄いことに、彼が言う値が測定した実測値から10%も違っていなかったことだ。」とのことで、驚くより呆れてしまいました。

ところが最近のTVルポの番組で、有名な藍染め工房の主が藍染め液調合の最終鑑定に機械では無理で、自分の舌で舐めて評価し、舌の味わいの微妙な差が藍染めの結果に現れると語っていたのです。生産物と芸術品との差はあれ、中国の人間センサーを呆れていた自分が恥じいる結果になりました。代々継がれる職人技には人の五感の感性に訴えるものが多く、その技は五感で会得せざるものとなって、匠の歴史を刻んでいます。総てがデジタル化されていく現代で、まだアナログ的にしか評価できないもので価値があるならば、それも良いのではないかと思うようになった次第です。

さて、私の肩にとまったアサキマダラの写真を見た友人の蝶々博士は一目見るなり、「羽の下方に黒い模様が有るのでこの蝶はオスだ。君を匂いで嫌ったのではなく、オスだから女性の頬っぺたにとまりに行ったのさ。」と解説してくれました。一時を一緒に過ごしたあのアサキマダラは長い旅路を終えて、今どこの楽園で羽ばたいて蜜を吸っているのかと思うと心が安らんできます。

[左回り、右回りの不思議]2020/02/27

先日、ラグビーのトップリーグを友人と観戦に行きました。ヒーローになった日本代表チームの選手が出場していなくても正面、バックスタンド席が超満員で、昨年のラグビー人気が健在であることがわかり、ボランティア経験者として嬉しかったです。新型コロナウイルス蔓延防止のために大規模集会が自粛ムードで、サッカーのJリーグも開幕後に急遽延期されました。東京オリンピックまでにもう半年ですが、新型コロナウイルスがそれまでに暑さで降参して消滅してもらうことを祈るのみです。
 私の家族は根っからのスポーツファンで、特に4年おきに開催のFIFAサッカーワールドカップはフランス大会から現地応援に駆け付けています。ブラジル大会は初めて南半球に立つ機会だったので、私は秘かな実験を楽しみにしていました。日本に来る台風は中心に反時計回り(左回り)の風が吹くのは、地球の自転によるコリオリの力が原因で、ご存知の方が多いと思います。南半球では逆方向に力が働き、トロピカルサイクロン(熱帯低気圧)は時計回り(右回転)の風が中心に向かって吹きます。これと同じ原理で、ブラジルのホテルの浴室でバスタブの栓を抜くと見事に時計回りの渦で湯が吸い込まれるのを見て、南半球に来たと喜んだ次第です。
自然界ではコリオリの力とは無関係に、左、右のどちらかに偏在していることが良く知られています。例えば、朝顔の蔓は右巻き、藤の蔓は左巻、巻貝のカタツムリは右螺旋が多く、生物が利用できるアミノ酸は左旋性のみであり、DNAは右巻き螺旋構造、ニュートリノは左巻きスピンのみが存在するとかです。人間界では右利きを基準に決めたと思われるものが多く、ネジは力を入れて締められる右螺旋、手で回転始動させた飛行機プロペラは左回転、仏教でも右旋を優位としてマニ車は右回転です。そもそも人間は脳の機能が対象でなく、右利きの人間のほとんど(約95%)で言語中枢がある優位半球は左脳で劣位半球は右脳になっています。
ところでスポーツ好きにとって不思議に思うのは、トラック競技では走る方向が左回り(反時計方向)に決められていることです。陸上競技だけでなく、自転車競技、スピードスケートリンク、野球のベースランニングも左回り、ちょっと畑が違う自動車レースでインディー500とF1レースも左回りです。思い出せば、映画「ベンハー」の古代ローマの戦車レースも左回りでした。人類はどうも左回りが大好きなようで、なぜなのでしょうか。フィギャースケートも左回りをして4回転ジャンプも左回りと思いましたが、これは規定が無くて右回り、右回転ジャンプの選手もいるそうです。
この左回りの主たる要因に人の心臓が左に位置することを上げる説があります。左回りの方が心臓を内側にして廻れるので遠心力が右回りより小さく負荷がかからないので、左回りを好むのだとしています。速度が早くなると先に述べたコリオリの力も無視できないのではとも思われます。またアシックススポーツ工学研究所が調べたデータでは、足には左右差があって、左足を「支持足」、右足を「機能足」すなわち「利き足」に使っている人が多いとのことです。したがって、コーナを廻る際に右足を強く蹴って遠心力に打ち勝って推力がだせる左回りのトラックを人類が好んで来た結果ではないかと私は推論しますが、いかがでしょうか。
ところで、そもそも回転方向の基準となるClockwise(時計回り)が右回りなのはなぜでしょうか。すぐ思いつくのは日時計です。太陽が東から上がると立てた棒の影は西から北、東へと右回りに動いて行きます。しかし、これは北半球でのことで、南半球のインカ帝国の日時計の影は西から南、東へと左回りでした。北半球の文明が機械式の文字盤時計を発明して普及させたからこそ、時計回りは右回転になったといえます。
つむじが左巻きの人は頭が悪いという俗説がありますが、私の頭は既に剥げかかっているので、つむじがどちらに巻いていたのかはもう判別不能になっています。

白亜紀地層の絶景に触れる甑島紀行(partⅠ)2020/8/23,24

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屋久島に行く途中に立ち寄った甑島は期待以上に自然が残されていて、白亜紀の断崖だけでなく武家屋敷地区の古民家宿泊も素晴らしかったです。幸いにも断崖クルージングが欠航せずに、念願の鹿嶋断崖等を海上から見上げることができました。ところが台風襲来で2日目の午後にもフェリー欠航の知らせが入り、急遽再度来島を誓って翌朝に離島せざるを得ませんでした。初めて「こしき旅フリーチョイス」の宿泊助成を採用し、船+宿+体験のセットの事前申込みで、通常の半額に近い費用での旅を実現できたことは良かったです。尚、現在は既に宿泊助成を打ち切っているので御注意ください。

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このPartⅠでは上記のスケッチ紀行MAPに描いた、上甑島1泊(8/23、24)の赤線ルートの行程をご紹介します。詳細はフォートラベル(URL: https://4travel.jp/travelogue/11675423 )に掲載していますのでご覧ください。
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[森にオオカミを放て]2020/03/12

5年前に鹿児島の南にある口永良部島が噴火し、住民全員約140人が隣の屋久島にしばらく避難したことをご存知と思います。以前に口永良部島を訪れた時は80戸余りで暮らす少数の人間と家畜以外は多数の鹿と竹によって支配された島で、数日をそこで過ごすと時間がゆったりと流れて心身が安らぎました。避難先の屋久島も野生の鹿と猿が多数生息し、我が物顔に道路を歩き回って観光客を喜ばしています。ところが近年、鹿の生息密度が本土の10倍にも増え、木立の樹皮を食い荒らして杉林の立ち枯れを起こし、さらに観光目玉の峡谷に生える苔まで食べるにいたり、大きな問題になってきました。
 
鹿肉は晩餐会の定番メニューになる最高級のジビエなので、捕獲して食べてしまえばよいと思われるかもしれませんが、ジビエは供給と需要がそろわないと大量には捌けません。島の大半が世界遺産の国有林のためシカの捕獲は免許をもつハンターの解禁期間での銃猟に制限され、全国的にもハンターの人口は激減の一途で少数です。そこで屋久町では鹿捕獲増のため補助金作戦を履行し、山のガイドたちは暇な冬場の副業として国有地外で畑に出没する鹿退治にワナ猟を始めました。鹿狩りに同行したところ、動物愛護団体からは非難殺到する内容で、罠にかかった鹿のとどめ、皮剥ぎから解体の一連の作業を初体験しました。鹿の全身写真、両耳先端と尻尾の毛の3点セットを町役場に持っていくと補助金がもらえます。問題は肝心の鹿肉で、林野での解体のために衛生上の問題があって販売ができず、親戚、友人に配るだけに限られます。そのため鹿肉は島人にとって食傷気味な存在になっています。
 
猟銃組合の知人が島で初めて開設した鹿専門の精肉所の見学に招いてくれました。クリーンルームで白衣をまとった調理人が丁寧に鹿肉の部位を切り分け、金属探知機で散弾の取り残しをチェックして、最後に冷凍して殺菌処置を行っていました。卸先はレストランで正規の流通経路での鹿肉が高いのもうなづけた次第です。特に鹿肉の寄生虫は要注意で、生肉を食べて寄生虫に内臓を食い破られて危篤になる例が多くあるそうです。鹿肉を給食で配給等の需要喚起の取り組みが全国的に始まっていますが、ネックはやはり供給の問題です。
そこで、鹿害の解決は進みそうにないのですが、鹿の天敵がいないことが根本原因だとして「日本の森にオオカミの群れを放て」を解決策として提案する団体があります。一般社団法人日本オオカミ協会(https://www.japan-wolf.org/)で、役員に大学教授や元日本鳥類保護連盟理事も名を連ね、日本オオカミ(頂点捕食者)の復活は生態系復元の第一歩として真面目な活動をしていて、奥山はオオカミ、里山はハンターの施策を提唱しています。確かに屋久島には熊などの禽獣が不在で、天敵を設ける奇抜な解決策は面白いと思います。でも屋久杉巡りのトレッキングを楽しむ身としては、さすがに狼の遠吠えが山中をこだましたら鹿だけでなく人間も震え上がること間違いなしです。昨今、全国的に野生動物が都市近辺に出没しはじめて住民とのトラブルが続出していますが、地球の生態系を壊して頂点に立つにいたった人類が、自らその解決策を見出す責任に問われる時が来ているのだと思います。

[100人抜きじゃんけん王者]2020/02/13

皆さんは正月をどのようにお過ごしでしたか。例年通り、正月に石打のスキー場で弟家族と合流し、前夜に除夜の鐘をついて初滑りをしました。美味しい米飯と姪孫の小学生になったY君が挑んでくるゲームの相手をするのも楽しみの一つになっています。一昨年はオセロ、昨年は流行の将棋と挑戦を受け、飛車角抜きが無用と言ったために教育的指導で粉砕してあげました。今年はY君がじゃんけんをしようと持ちかけてきました。勝負というには単純なので首をかしげたのですが、驚きの事態が待っていたのです。

彼とじゃんけんを始めて直ぐにわかったのですが、勝てないのです。10回やって全敗。次の10回もアイコ1回をはさんで全敗。これは確率現象ではなく、何かがおかしいのです。隣で様子を見ていた姪が含み笑いして、先日小学校でじゃんけん大会があってY君が100人抜きを達成してチャンピオンになったことを耳打ちしてくれました。彼が得意顔にじゃんけんに勝てる秘密を教えてくれたことは、「相手の手が見える」と。相手が手を振り下ろす間に握りの形がわかるので勝てる手を出せば良く、さらに女の子は心理的にもわかり易いから楽だと説明したのです。人間のリアクションタイムは0.1秒以上と言われるので、彼の抜群な動体視力によるじゃんけん能力に恐れ入り、信じられない思いです。

動体視力で思い出すのは、30年以上前にNHKが子供向けに放映していた科学番組「四つの目」でプロ選手の凄さを取り上げたことがあります。各スポーツのプロ選手、セミプロ、アマチュアの3人に面白い実験をしています。テニスではガット面の真ん中に穴をあけたラケットで何回もサーブを行う実験で、プロ選手は見事にボールが穴を通り抜けて毎回空振りしたのに、アマチュアは当然、セミプロでもボールを当ててしまいました。ゴルフではヘッドフェイスに感圧紙をつけて何回もティーショットを打たせたところ、セミプロは的確にボールを捉えて打てたのですが、感圧紙には異なる場所に打点がいくつも残されていました。ところがゴルフプロの結果は感圧紙にひとつの打点のみが印されていたのです。次にヤクルトの池山選手が登場し、45rpmで回転するEPレコードに書かれた文字を見事に読み上げたのです。スポーツプロ選手はいかに動体視力が優れ、また日夜切磋琢磨して練習をしていることが良くわかった番組でした。

最近はさらにスポーツ科学が発展し、プレイ中の脳の働きさえも解析されています。脳情報通信融合研究センター(CiNet)がMRIで現ブラジルサッカーの最強FWであるネイマールとJリーグのプロ選手、アマチュアとを比較して調べたことがあります。彼がドリブルなどで足を動かす際、大脳の活動範囲(発火領域)がアマチュア選手の1割以下、Jリーガに対しても4割以下で行っている驚くべきことが判明したのです。その分、彼の脳は周りの動きに対して高度な判断ができ、見事なパスや劇的なシュートの高パフォーマンスを発揮しているわけです。これはネイマールが幼少の時にいつも家の中で裸足で遊んでボールに触れていた経験が脳の成長につながったと解釈されています。運動神経はゴールデンエイジ(5~12才)で著しく発達することが知られています。日本卓球協会では、既にパリのオリンピック(2024年)に向けて全国から選抜した小学生の強化合宿が始まり、その練習風景をNHKニュースが取り上げていました。コーチが卓球のラリー繰返し速度(回/分)を120から190に上げる目標を掲げていると話をしていました。メトロノームで190の振り子を試しで見たところ、目が追い付かなく目が廻ってしまいました。トップ選手になるにはゴールデンエイジでの特訓が必須とされていますが、そのレベルの高さに驚きます。

さて、Y君はスキー初滑りをした翌日に、サッカーの試合があると言って先に姪と一緒に帰っていきました。試合に出ないと熾烈なレギュラー取り競争に勝てないそうで、その後に彼のチームが都大会に進出したとのニュースを聞いて応援に駆け付ける予定です。来年は彼の動体視力が威力を増して、どのような勝負を仕掛けて来るのかを今から楽しみにしています。